タントラヨガ — その真実と不真実

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タントラヨガについて、マスコミでは熱い議論が交わされています。アヌサラヨガのコミュニティで次々に明るみにされるスキャンダルの件もあるし、ウィリアム・J・ブロード氏のニューヨークタイムズ紙での「ヨガはセックスカルトとして生み出された」という発言について様々な意見が飛び交っていたり。ヨガが世間の注目を浴びるようになったこと自体は良いことだと思っていますが、それと同時に、いくつかの誤解がヨガの名を落としめることになるのではと心配です。タントラヨガは、私の心のとても近しいところにあるものです。子供の頃、父はカヴィ・ヨギラジとしてタントラ・ヨガの世界に入りました。親戚にもタントラの指導者がおり、南アフリカにある我々のアシュラムを訪れタントラ・ヨガを教えて暮らしていました。イシュタ・ヨガは、私が小さい頃から共に育ってきたタントラ・ヨガの教えを大いに利用してできており今となってはとても人気な流派ですが、そのイシュタヨガのヨギラジでもあり50年間に渡りこれらの教えを伝えてきた私にとって、タントラヨガがどんなものであり、またどんなものでないのかというテーマについて語らなければ、という使命感にかられるのです。

タントラであろうとなかろうと、そもそもヨガとは宇宙の知性と繋がるために自己の意識を呼び覚ましていく一連の練習であり、そこで得た経験を元に現実の世界で様々な制約から解き放たれた状態で生きられるようにするものです。すべてのヨガが同じ起源を持つのにもかかわらず、様々なヨガスクールや流派が独自の練習方法を打ち出し、先生から生徒へそれぞれの解釈を、それぞれのやり方で伝えています。現在ヨガを練習するあなた達や学者にとって、そういった異なる教授の方法や解釈が今までどのように影響をしてきたかを識別し、その起源を知ることはほとんど不可能だと言っていいでしょう。さらに最近では独自のヨガを作り出し、それをブランド化し、グローバルに展開し利益を得ようと躍起になっているヨガスクールもあります。しかし本来ヨガとはいつの時代においても生き物のように有機的に成長していくものなのです。古代からの伝統的な知恵であるシャクティと呼ばれる生命エネルギーを師からその弟子へと伝授していく、その師弟関係が確固たるものであれば、脈々と受け継がれ廃れることなく生き続けていくものなのです。

ヨガは今から4000年から5000年前には発祥していたことが考古学上証明されています。中世初期のバラモン(司祭階級)は悟りを開くことを目的に禁欲や俗世間から隠遁した生活を提唱していましたが、その保守性に対する反応のひとつとして様々なヨガ流派の中でうみだされたのがタントラヨガだといわれています。タントラヨガの隆起によって一般層の家庭を持つ者にもヨガを練習する機会が与えられることになりました。“タントラ”という言葉は、サンスクリット語で拡大・発展を意味するtanotiと、自由や解放を意味するtranyatiが合わさってできたものです。つまりタントラを通じて私たちはこの宇宙を支配している知性と繋がるべく意識を拡大し、その経験を毎日の生活の中に取り入れ生かしていくという意味です。全てのヨガと同じように、タントラもまた超越経験(宇宙との一体感)を目的に行うものです。しかし同時に、この現実世界の中で生き、練習を通じて得た一体感を今生においてカルマ(業)の浄化に生かすことにも重きを置いています。家庭を持つ者達のヨガの学校は数世紀に渡り厳格な僧侶達の伝統と共存してきましたが、不完全性を持つ人間がヨガを練習しこの世で生きることが可能なのか、常に議論されてきました。

人間としてこの次元界においてどのように超越経験を具現化するのか、という問いに対するタントラからの答えは、人間は不完全性があってして完全であることを認めようというものです。ここで言う“不完全性”とは練習を通じて気付くもので、私たちはこの不完全性を認識することで成長することができるのです。衝動や欲望といった気持ちを早く超越したいという焦りによって、そういった気持ちを無意識下の奥深くに押しやってしまうことがありますが、それは良くありません。私たちのエゴはサンスクリット語でavidyaと呼ばれる無意識下の信念の上に成り立っています。ヨガを練習することで私たちを縛り付けている信念を手放すことができます。タントラは心の弱さを避けようと厳格に統制するのではなく訓練することによって人間の性向を識別できるようになることを練習の基礎としています。例えば偏食傾向がある人の場合、ポテトチップスを食べることを完全に禁止するのではなく、ポテトチップスを一枚だけ食べることを練習させるのです。

衝動や性向が強ければ強いほど意識の上に持ち上げるのは難しくなります。よって性的エネルギーをヨガの練習の一部として扱うのは上級者向けです。一部のヨギが性的エネルギーを練習に用いるとはいえ、常にセックスがヨガの練習の一部ということではまったくありませんし、ましてやハタヨガがセックスカルトとして始まったというにはほど遠いのです。ハタヨガが私たちの身体を敏感にし、性的エネルギーを含めた身体エネルギーを作り出すのは確かです。しかし性的衝動を激高させるようなものではありません。行き詰まったエネルギーを揺り動かし、同時に波立っているエネルギーを落ち着かせバランスをとるものです。タントラがいつどこでセックスと融合し始めたのか私は定かではありませんが、Sex Sells(「セックスは売れる」)と言われるようにいつの時代、どの文化においてもセックスを想起させる内容は影響力が強いと言うことでしょう。タントラヨガの練習は体内エネルギーの動きを理解し扱い方を学ぶことであり、99.99%セックスとは関係ないということは理解しておいてください。こういった練習を実際に行なうのはとてもハードです。私たちが普段イシュタ・ディクシャで行なっている長息呼吸法や呼吸のコントロールや背骨のエネルギーを視覚化する練習から始め、定期的また長期にわたり行なわなければなりません。

タントラヨガでは性的エネルギーは人間が生まれつき持っていて、地球上の他の生物と同様、子孫繁栄と進化のため必要不可欠で大切だと考えられています。それに加えセックスという行為は一瞬の行為とはいえエゴを解き放たなければならないため、無意識下の意識を見いだす練習において便利な手段とも言えるでしょう。しかし同時にセックスとは非常に原始的な行為あるがゆえ、無意識下の意識パターンが具現化する場所でもあります。性的な関係それ自体は悪いことではありません。人間である以上避けることはできませんし、成長に寄与するとも言えます。しかし、マスターレベルに到達していない者が精神性や悟りを重視するあまりセックスを禁止したとしても、性的エネルギーはいずれどこかで発散されなければなりません。そして、密かに蓄積されたこの性的エネルギーは力やステータスの勝る人間関係において、弱い者に対する虐待的な行為として表れ問題を起します。

スワミとグル(ヨギラジ)との違いも大きいでしょう。スワミとは僧侶のようなもので、公に禁欲の誓いを立てている人。グルとは師、先生という意味で、あるヨガ流派に入門しその奥義を伝授された人です。スワミは皆グルですが、全てのグルがスワミかというとそうではありません。スワミが弟子とセックスすることは決して許されることではありません。セックスは悪いことだからではなく、誓約を破り弟子の信頼を裏切ることになるからです。一方グルの場合、自分の弟子とセックスをすることはいいことではありませんが、師と弟子という関係からパートナーの関係へ変わったときに、お互いの合意の元で行なうのはよしとされるでしょう。権威ある人による権力の乱用は、いかなる状況においても許されるものではありません。

信念を手放すという過程は繊細であり、ひとりひとりのカルマ(業)によって異なるということはよく理解しておかなければなりません。カルマには性的エネルギー、偏食傾向、不安定な感情、疾患を含むものなど様々ですが、いずれにおいても信頼できる指導者の導きと手助けが必要です。サンスクリット語で、グルとは“暗闇を晴らす者(意識をより明確にするのを助ける者)”という意味で、シスヤとは“弟子、生徒(師との関係に尊敬、献身、信仰心を持ち込む者)”という意味です。グルとシスヤの関係が発展していく中には有機的な成長と透明性が必要となります。なぜなら、双方の関係に強固な基盤がなければ、シスヤは練習の繊細さを学ぶために必要な信頼と安定性を獲得することは不可能ですし、グルは自らのエゴの中に熟練した技を埋没させてしまう危険があるからです。ヨガを行なう師とその弟子達は、この基盤を忘れずに常に立ち戻っていてほしいと思います。そうすれば、ヨガの放つ目映い光は、永遠に輝き続けていくことでしょう。(訳:中山葉月

“What Tantra Is and Is Not.” ALAN FINGER . Ishita Yoga, Web.

http://www.ishtayoga.com/what-tantra-is-and-is-not


中山葉月 | ヨガ翻訳・通訳者 ヨガインストラクター
ハワイとカリフォルニアでの留学後、翻訳者となり契約書、マニュアル、ビザ申請書類などの翻訳を行う。ヨガ好きが高じて全米ヨガアライアンス認定資格を取得。福岡にて英語でヨガを教えるコミュニティーAUMAU YOGAのヨガインストラクター兼マネージャーを務める。バリ島で開催されるヨガアライアンスインストラクター養成コースの日本語通訳を担当。Pre + Post Natal + Children’s Yoga + Teen(産前産後ヨガ・子供、ティーンヨガ)トレーニング修了。ヨガ関連記事やテキストの翻訳経験多数。

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