B.K.S.アイアンガー氏の最後のインタビュー

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B.K.S.アイアンガー氏について

B.K.Sアイアンガーはアイアンガーヨガの創始者です。世界で最も重要なヨガのグル(師匠)の一人として称えられる彼は、2014年8月20日、インドのプ-ナで亡くなりました。享年95歳でした。

彼がインド、カルナータカ州に建てた学校で録音されたこのインタビューが最後のインタビューとなったそうです。教育を受けずに育ったことによる自信の無さを彼がどのように克服し、ヨガの指導者として国際的に活躍するに至ったかを語っています。

以下インタビューの翻訳です。

【記者】この地の高校や病院、子ども達に対してどのような貢献をされているかについてお話いただけますか。

私も学校には通いましたが、あまり高い教育を受けたとはいえません。そのため「教育を受けていない」という劣等感が常に私の中にありました。1954年に初めてヨガの指導で海外に招かれた時、ただでさえ教育がない劣等感を持っていたのに加え、言葉までわからず、とても辛い思いをしました。もちろん、現在では通訳の方がいるのであまり問題はないのですが・・・

しかし当時、私の言語を分かる人はほとんどおらず、通訳を担当してくれる人がいませんでした。劣等感を強烈に感じたのは、ユーディ・メニューイン(アメリカ人のヴァイオリン奏者)のような有名人が私を招待してくれた時でした。私はただのヨガ指導者なのに、私までもが有名人のような印象を抱かれるのではないかと心配しました。ところがユーディは、そのときとても上手にその状況を処理してくれたので、現地の人々も私が何者なのかを理解してくれました。

そこでは指導において言語がそれほど重要でなかったので、特に問題はありませんでした。しかし講義やデモンストレーションにはよく問題が起きました。演説や講義をするという経験がなかった私は、上手く話をすることができなかったのです。ここでも教育の重要性を悟ることになりました。教育なくして自信は生まれてこないのです。

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画像:ブックカバー
B.K.S.アイアンガー氏の著書では、おそらくこの本「Light on Yoga」が一番知られている。初版は1965年。

【記者】インドの子ども達の現代の教育について、どのように取り組んでいるのですか?プーナでご経験があると聞いていますが。

そうですね。私が教えた生徒たちは学位を取りましたが、私は大学に行かなかったので学位を持っていません。私の教え子達は皆大学に進み卒業していますが、私自身はその経験がありません。

【記者】子ども達に対するヨガの指導について、あなたは「子ども達はこの瞬間を生きている」と言っていましたね。大人はそうではないと。また、子供には目を使わせる指導をされますが、大人に対してはそれはできないということですが、なぜですか。

目は情報を直接的に認識します。子ども達が私の伝えたいことを早く理解することができるよう、私達は目を使わせる指導方法を取り入れています。

この村に来たとき、私はあちこちでうろつく子ども達を見かけました。誰一人、政府でさえこの子ども達に興味を持っていないことについて、危機感を覚えるべきだと思いました。そして1968年に私は決めたのです。「少なくとも子ども達がアルファベットは読めるようにさせよう」と。村のお寺の前の小学校をご覧になりましたか?私は子供の教育のためにあの学校を作ったのです。彼らに学校へ行って家に帰るということを習慣づかせることで、少なくとも仲間や家族との繋がりを深めることができると思いました。

1968年に、6歳から13歳の子ども達の教育から始めることにしました。10代の年頃の時期は非常に重要で、あらゆる変化が起こる時期です。私は「もし子ども達を今教育しなければ、彼らが成長し若者となったときどうなってしまうのだろうか。」と考えたのです。彼らは皆いわゆる庶民で、話し方や他の人たちとの交わり方を知りませんでした。私はより高い教育を受けさせたいと思い、約6年前にこの場所を作りました。

ここはもともと空き地でした。私は基金を立ち上げて学校を作ろうと思いました。そのことについて村の人々に意見を問うと、賛成し承諾をしてくれました。私たちはこの地を競売にかけようとしていた政府に交渉し、土地を購入したのです。ちょうど村人達は競売に反対していたところでした。なぜならこの土地には村人にとって大切なお寺があるからです。この土地は何か良いことに使ってくれる人に買ってほしいと考えていたのです。

私が大学を作りたいと彼らに伝えたとき、「反対意見はない」という内容の手紙を村人みんなで書いてくれました。カルナータカ州の政府も「もし村人達が承諾したなら、喜んでこの土地を手放します」と言ってくれたのです。政府は親切にも半額で土地を譲ってくれるというので、素晴らしい機会だと思いました。こうして、おおよそ22エーカーの土地を購入したのです。

【記者】たくさんの子ども達がいますね。ヨガを教え始めて以来、子ども達の暴力行為は減ったのですか。

はい。ご覧になったかと思いますが、ここにはヨガホールが一つあります。ここではヨガが唯一の必修科目です。子ども達はヨガの訓練を受けることで、心と身体の働きを理解できます。だから学校の中にヨガホールを建て、常任のヨガ指導者を置いているのです。私はヨガと教育の融合を行いました。

【記者】このアプローチは世界中に広がりますか。ヨガの導入はヨーロッパやアメリカの子ども達の教育にも役立つと思いますか。

はい。そのように私達は彼らを教育してきました。子ども達は皆上達し、州立ヨガ選手権でも二位を受賞することができました。

【記者】初めてヨガの指導をしに西欧を訪れたとき、どんな抵抗を感じましたか。

1954年のフランスで初めてデモンストレーションをしたとき、初めは抵抗を感じました。指導やデモンストレーションをする際に哲学的な言葉を使わないようにして、身体的健康と精神的調和の重要性についてのみ話すようにしていました。そうすることで現地の人々はヨガに興味を持ってくれたようです。

1972年、私はイギリス政府と面会して、彼らはヨガを科目の一つとして承認してくれました。しかし私が哲学的なことを一切教えないことを条件に、でした。委員会のメンバーはクラスを視察したいというので、私は「いつでも歓迎しますよ、私の指導をぜひ見てください。」と伝えました。後日クラスを見に来たメンバー全員が私に言いました。「これはまさに身体を鍛えるための実践的な方法で、イギリスの学校や大学に導入できますね。」と。

1973年、さらにヨガを研究したイギリス政府は、ヨガを成人教育にも取り入れることにしました。このようにしてイギリス政府がヨガは健康と心身の調和を保つために有効だと知ったことで、ヨガはさらに有名になっていきました。アメリカ人もそれに続き、次にフランス人、そしてあらゆるところに広まっていったのです。

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画像:ブックカバー
B.K.S.アイアンガーの二冊目の本であり、権威ある古典的なものとして認識されている「Light on Pranayama」は1985年に初版が出版されました。

【記者】西欧では精神、知性、身体の分離が問題視されています。

意識と知性の間には大きな違いがあります。例えるなら、意識は会社を人々に紹介する広報担当のようなものといえます。意識は身体と知性を繋げる仕事をしているのです。意識の仕事は知性を身体の様々な部分へ繋げるところまでです。それから知性と身体は共に働き、その調和を強め、意識は補完的な存在となります。知性は身体に直接働きかけ、それぞれの部分と循環を改善させるよう誘導する、というこの説明はとても有名になりました。

【記者】以前とても興味深いことをお聞きしました。官能性とスピリチュアリティはコインの両面のようなものだということです。詳しく説明して頂けますか。

そうですね、これはとても良い質問をされましたね。まず、ヨガが1965年までは西欧では受け入れられていなかったということに驚かれることでしょう。

官能性といえば、昔1950年代頃のことですが、アメリカでもヨーロッパでも「ワイン、富、女」が三大快楽とされていました。そのため「難しい哲学について話したとしても全く彼らの世界では受け入れてもらえないだろう」と思った私は別のプローチでヨガの考えを伝えることにしました。タバコを吸う人達へは「喫煙してもいいんですよ。ヨガによってあなたの肺がニコチンを受け入れるキャパシティを持っていることがわかります。」と言うことにしました。このような方法で、当時の人々の持つ感情に合わせてヨガを広めました。

ほかにも「もし女性との関係を楽しみたいならば、ヨガはその力を与えてくれますよ。」「あなたは今、タバコを吸うことでニコチンを摂取していまね。ヨガではニコチンではなく、酸素を体内に取り入れます。どちらがいいですか?」などと言いました。

このようにして、私は西欧社会の感情的側面に寄り添っていったのです。彼らがスピリチュアリティについて考えるようになるまでにそれから数年がかかりました。私は「官能の喜びは一瞬のもので、スピリチュアルな喜びは永続的なものなんですよ。どちらのほうがいいですか?」と彼らに問いかけ続けました。西欧諸国で10年から15年間ヨガを指導しましたが、先ほどお話したような内容を繰り返し説明し、彼らのスピリチュアリティへの興味を発展させていきました。

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画像:ブックカバー
2002年、B.K.S.アイアンガーはLight on the Yoga Sutras of Patanjaliを出版しました。Patanjaliは古代文書の中で、最も評価の高い翻訳と評論の一つとされています。

【記者】ヨガ・スートラの始まりのところで、パタンジャリは「ヨガとは心の静けさである」と言っていますが、西欧ではその考えは理解されましたか。

はい。冒頭にそのように書かれていますね。昔は、本の内容の結論を本の始めに書くのが一般的でした。後半の方で、パタンジャリは心をコントロールする方法ついて説明しています。パタンジャリはその著書においてこのように始めています。「ヨガとは何か?鍛錬こそがヨガであり、鍛錬が真のヨガにつながり、ヨガを通じて人は成長できる。その一連の流れを通して、心は静まるのです。心が静寂を得たとき、本来の自分を取り戻すのです。」つまり、パタンジャリのヨガ・スートラの真髄は、初めの三つのスートラに含まれているということなのです。

【記者】ヨガスートラでは、身心の苦痛というのは、打ち勝つことができるものであると考えられていますよね。

その通りです。そう結論付け、その後に定義されています。現代ではこのようにまず結論を書きその後に定義する形で本が書かれることはなく、最後まで段階を踏みながら進んでいきますよね。しかし昔の本や経典ではまず、真髄や価値について触れ、その後に方法や効果について解説しています。つまり、初めの三つのスートラでヨガの全てが語られているのです。その後、パタンジャリはどのようにしてこれを達成するかについて詳細な説明をしています。

【記者】今日では、アメリカでヨガの訓練をしている人は1700万人にも及び、多くのヨガビジネスが存在しています。あなたはヨガの将来について心配されていますか。

いいえ、全く恐れてはいません。私の生徒には「流れに沿って進みなさい」と話しています。「もしヨガを商業化したいのであれば、すればいいのです。ただヨガを食い物にしてはいけません。10パーセントから15パーセントのマージンを取ってもいいですが、いくら料金を上げたとしても、その金額以上のものを提供しなさい。」と。これは実践的な哲学であり、現在でも私の教え子たちはみながこれに従っていて、彼らはとても誠実で正直な理由もこの哲学にあるのです。この哲学は教えの中でも生徒たちに言い聞かせています。私の教え子達はそれぞれの分野で、他者に対しひとつでも多くのことを提供しようとしています。なぜなら、私が彼らにこう教えたからです。「それが正直ということだ。正直であるということは、たとえ1パーセントでも多く、与えられた以上のものを与えるということだ。それが道徳の規則だ。」と。

【記者】指導者は生徒達に合わせるべきではないでしょうか。時に指導者はとても厳しくて、独自のルールを持っていますね。

感情を知り、同時にその感情をどう組み立てるかを学ぶことは、実践的なことになると言えます。そのようにして私はヨガを組み立ててきたのです。したが営利主義については心配していません。なぜならヨガ訓練を始めたいという生徒なら誰でも、独自の力で最良の方法を探し出したいと思っています。このような生徒が営利主義をもつことはありません。練習の質のことだけを考えているからです。ヨガの練習の質はとても重要です。量にばかり重きを置く者はたくさん存在しますが、私「量と質どちらも大切にしなさい。どちらも同等の価値を持たせなさい。」と教えています。私はそれぞれの量に対し、更なる質を与えます。量の中に存在する質が評価を得てアイアンガー・ヨガが人気を博したのです。

【記者】アイアンガー・ヨガがとても有名になったことに驚きましたか。

それはそれは驚きましたね。なぜなら、1954年にロンドンへ行ったときには、イギリス出身のユーディ・メニューインとポーランドのピアニストであるヴィトルト・マウツジンスキの二人しか生徒はいなかったのですよ。他は誰も来ませんでした。

【記者】インドラ・デヴィもいましたよね。

インドラ・デヴィは私は同じグルから学びました。

私はいつも自分の出来る限りのことをして、ヨガの魅力を伝えていきました。皆に人がどのようにして上達するかを見せるために、公開クラスを始めました。初めはたったの4人の生徒しか来ませんでした。今ではお分かりの通り、何百万もの人がクラスに参加しています。

【記者】最後になりますが、今日では西洋の科学者がヨガを研究し始めているそうですね。

ご存知のことと思いますが、アメリカやイギリス、イスラエルの医療組織の研究を含め、アイアンガーヨガに対する研究はたくさんあります。彼らのレポートでは「ヨガには、人々に活力を与える何かがある」と、とても良いことが書かれています。アメリカでは、お年寄りがヨガを学び始め、彼らは「自信を持つことができ、生きたいという気持ちになった」と言っています。

【記者】一度ヨガを始めたなら、その後の人生において、毎日練習することになりますか。

そうです。私は年齢や健康状態により、一人ひとりができることとできないことに合わせて、様々な方法を考えました。多くのプロップスも発明しました。お年寄りにまず必要なのは自信を持つことですからね。お年寄りをサポートするための様々な道具を導入し始めたのです。そして年配の方々も勇気と自信をもってヨガを始め、心をリラックスさせ、体をストレッチすることができました。このように、アイアンガー・ヨガは最も良いものであり、そうして人気を博してきたのです。

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画像:ブックカバー
B.K.S.アイアンガー氏は、2006年に彼の最後の本「Light on Life」を出版し広く絶賛された。

【記者】身体を主体とし、脳はその客体であるという考えについて教えてください

ご存知のことと思いますが、私達のほとんどは頭から先に生まれてきます。そのためなのか、私達は身体を脳の支配下にあるものとしがちです。脳をたくさん使うのでたくさんの血液を脳に送る必要がありますし、頭の使いすぎで疲労しきっています。したがって私はセツバンダ・サルヴァンガーサナ(肩で支える橋のポーズ)やヴィパリータダンダーサナ(逆転の杖のポーズ)のようなポーズを作りました。そこでは、脳は自動的に傍観者となり、主役とはならないのです。そのことから、私は、身体に起こることを観察する方法について説明しました。

私は、身体の働きと脳の働きを差別化しました。右脳は左半身を司り、左脳は右半身を司ります。意識は注意を向けた身体の部分に向かうのです。使っていない身体の部位を活性化するために、脳の働きを使います。活性化するためにはまず観察し、「その部位に意識を向けたことはあったか」と自分に問いかけることが必要です。このように脳を身体の観察者とすることを生徒達に教えました。それが私の実践的方法術です。

【記者】それは、スティミュレイティブ(励みやプレッシャーからくる良い意味での刺激)というのと、イリテイティブ(irritative(苦痛や不快からくるという意味での刺激)の違いのようですね。私達にはなかなかこれを理解できないのですが。

たしかにとても複雑です。でも私の生徒達にはたやすく理解できることなのです。

【記者】食べ物も心にとって重要だとおっしゃっていましたね。

はい、非常に重要です。しかし、残念ながら私はとても貧しくて、食べるものにも苦労していました。「何日も何も食べないでヨガをしている状態の私が、食事について何を語ればいいのでしょう」と言ったものです。何日も水だけで生きていたのですよ。もしも食事についての質問を受ければ「食事は重要だ」と言いますが、食べ物自体がさほど重要とは思ってはいないのです。それよりもきちんと消化できるものなのかということに重きを置いています。

【記者】ニュー・デリーでは、ダライ・ラマと会談をされ、道徳的健康、意図的健康など、健康には五つの異なった構成要素があるというお話をしていましたね。

そうではなくて、身体の健康、倫理的健康、精神の健康、知的な健康、意図的健康、総合的健康、スピリチュアルな健康の7種類の健康があるとお話したのです。身体が引き締まっていることだけで健康というわけではありません。引き締まっていても肝臓の働きが鈍っているかもしれませんし、一見なにも問題がなさそうに見えても体内循環があまり良くないという場合もあるかもしれません。私たちはその全てを知らなければいけません。ヨガによってまず身体的に健康になり、それが心へと繋がり、知性、そしてスピリチュアルな健康へと向かう、というお話をしました。ここまできて完全なる健康と言えるのではないでしょうか。細胞のひとつひとつまでもが健康でなければならないのです。

【記者】素晴らしいお話をありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございました。あなたに神のお恵みがありますように。(訳:中山葉月

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おことわり
・ この文章には文脈を曲げない範囲で、内容や話の流れをわかりやすくするための編集がなされています。
・ インタビュアーもアイアンガー氏も英語のネイティブスピーカーではないことから、この筆耕はかなり難しいものでした。もし何か間違い等を発見された場合はお知らせください。

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中山葉月 | ヨガ翻訳・通訳者 ヨガインストラクター
ハワイとカリフォルニアでの留学後、翻訳者となり契約書、マニュアル、ビザ申請書類などの翻訳を行う。ヨガ好きが高じて全米ヨガアライアンス認定資格を取得。福岡にて英語でヨガを教えるコミュニティーAUMAU YOGAのヨガインストラクター兼マネージャーを務める。バリ島で開催されるヨガアライアンスインストラクター養成コースの日本語通訳を担当。Pre + Post Natal + Children’s Yoga + Teen(産前産後ヨガ・子供、ティーンヨガ)トレーニング修了。ヨガ関連記事やテキストの翻訳経験多数。

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