タントラ的視点から読むヤマとニヤマ

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パタンジャリは科学者のごとくヨガスートラをわかりやすく順序立てて編纂した。彼の発信したメッセージの基盤は「ヨガを知るためには、自らが今に在る必要がある」ということである。「今」をどのように見つけるかという問いに、パタンジャリは「ヴリッティ(心の作用)を止めること」だと答えている。この基本概念を述べた後、ヨガのプラクティスを構成する段階について記述しており、その最初の2つの段階がヤマニヤマである。

ヤマは「すべきこと」、ニヤマは「すべきではないこと」を基本的に意味している。避けるべき5つの行為(ヤマ)と心がけるべき5つの行為(ニヤマ)である。多くの人々がこれらの項目を単に道徳的な原則と捉えているが、実はパタンジャリのメッセージは道徳の領域を超えるものである。まず5つのヤマを避けることで、今まで自分の中に培われてきたプログラムを一度リセットすることができ、5つのニヤマを行い自己を再構築する。解放への準備である。ちなみに、ここで使われる「解放」とは宗教的な用語ではない。解放するとは、自己を抑制している考えを手放すことであり、解放により私たちは宇宙の知性と一体化することができる。その境地にいかにして達するか、それをパタンジャリは説いている。

パタンジャリはヤマとニヤマ合わせて10の行為を説明している。まず、私達が避けるべき5つヤマについて述べている。
[アヒムサ]暴力をふるわない、[サティヤ]嘘をつかない、[アステーヤ]盗まない、[ブラフマチャリヤ]エネルギーを使いすぎない(生命エネルギーを無駄にしない)、そして[アパリグラハ]貪らない。

続いて、私達が行うべきニヤマについて説明している。
[シャウチャ]清浄、[サント-シャ]知足、[タパス]鍛錬、[スヴァーディヤーヤ]自己探求、そして[イーシュヴァラ・プラニダーナ]宇宙に身を委ねること。
私たちにとって見えないものに自らを明け渡すことは簡単ではない。しかし実際、私たちは宇宙の支配者であるイーシュヴァラにより支配されているのである。

このようにパタンジャリは「すべきこと」と「すべきではないこと」を並べ、次の章でこれらの指針に従えば私たちが何を得ることができるかについて言及している。非常に興味深い章なのだが、そのひとつひとつはとてもシンプルなものだ。パタンジャリはこう記している。私たちが暴力をふるわなければ(アヒムサ)、心の安らぎを得ることが出来る。嘘をつかず(サティヤ)自らの心を乱さなければ、精神がクリアになる。盗まなければ(アステーヤ)次第に物欲が減り、欠乏感を感じなくなり必要な物は何もないと悟った時に真実の豊かさが訪れる。4番目のラフマチャリヤとは一般的に性的エネルギーを抑制することを意味するが、より広い視点で解釈すると、私たちの創造者であり万物を司る知性、ブラフマーへのアチャリア(自らの全エネルギーを注ぐこと)を意味している。ブラフマーへのアチャリアは瞑想を通じて自己の内面でのみ達成することができる。本来、意識は内側に向けるものであるが、意識を外側に向けることばかり繰り返しているとそれが習慣化してしまう。ヒンドゥー教信者にとってブラフマチャリヤとは禁欲を意味するが、タントラ教信者にとってブラフマチャリヤは必要とされるところにエネルギーを動かすことを意味する。5番目のヤマはアパリグラハ、貪らないことである。物を所有すれば、それらに気をかけなければならない。物を所有すればするほど、物に取られる気が大きくなる。つまりは自身の自由が奪われるということで、これを言い換えると「貪ることをやめれば自由になれる」ということである。

清浄(シャウチャ)を実行すれば健康的な肉体と純粋な心が得られる。足るを知ることをサントーシャというが、既に在るすべてのものに満足できるようになると、自らのカルマ(今世で浄化させるべき業)とダルマ(生まれた環境)にも満足できるようになる。貧しい境遇に生まれたとしても、人は与えられた経験から学ばなければならず、それに満足することでカルマとダルマを受けられるようになる。精神のタパス(鍛錬)を行えば意思の力を身につけることが出来る。スヴァーディヤーヤを学び自分を見つめれば、何をすべきで、何を手放すべきかが見えてくる。それが私たちを進化へと導くのである。

これを記したヨガスートラの一節がイシュタヨガの原点である。第2章44節に「Svadhyaya ishta devata sampra yogaha(スヴァーディヤーヤにより自らの望む神霊との霊交が得られる)」との記述がある。自己探求を行うことで個人が必要とするもの、イシュタデーヴァターを見出すことが出来る。サンスクリット語のイシュタデーヴァターは直訳すると「個人のディティー(神霊)」だが、つまりは神々のことを指している。イシュタデーヴァターは人間が進化するには何が必要か、すなわちどのディティーと関わるべきかを示している。ヒンドゥー教において、関わりとは信仰を意味するが、一方タントラ教信者にとってディティーはエネルギーの表れであり、必要なもののために自分は何をすればよいのかを教えてくれるものである。
自分が何をすべきかがわかったら、次にすべき行為はイーシュヴァラ・プラニダーナ、つまり自らを宇宙へ明け渡すことである。私たちは皆ビッグバンのカルマの一部なのであり、イーシュヴァラにすべてを委ねるべきである。イーシュヴァラとは、ヒンドゥー教ではこの次元界を統括する神のことを指す一方、タントラ教ではイーシュヴァラはブラフマー(宇宙の知性)の直接的表れであり万物の統括者、シヴァの性質をもつシュッダタットヴァのひとつと考えられている。全宇宙、そしてこの意識レベルの次元界で起こるマニフェステーションすべての知性を統括するエネルギーフィールドである。この力に私たちは身を委ねるべきである。万物を司る大いなる力に抗うことのないよう、可能な限りこのエネルギーに自己を明け渡すべきなのだ。

5つのヤマと5つのニヤマ。このひとつひとつの行いを守ればどう変われるかをパタンジャリは分かりやすく説明している。アーサナより前に取り組むべきヨガの最初の2つの段階である。自分が今すべきことは何なのか、毎日ヤマとニヤマを自分自身に読み聞かせることをお勧めする。そうすれば、いつの日かこの10の行為はあなたの一部となるだろう。(訳:中山葉月

“A Tantric Interpretation of the Yamas & Niyamas” ALAN FINGER . Ishita Yoga, Web.

http://www.ishtayoga.com/a-tantric-interpretation-of-the-yamas-niyamas/


中山葉月 | ヨガ翻訳・通訳者 ヨガインストラクター
ハワイとカリフォルニアでの留学後、翻訳者となり契約書、マニュアル、ビザ申請書類などの翻訳を行う。ヨガ好きが高じて全米ヨガアライアンス認定資格を取得。福岡にて英語でヨガを教えるコミュニティーAUMAU YOGAのヨガインストラクター兼マネージャーを務める。バリ島で開催されるヨガアライアンスインストラクター養成コースの日本語通訳を担当。Pre + Post Natal + Children’s Yoga + Teen(産前産後ヨガ・子供、ティーンヨガ)トレーニング修了。ヨガ関連記事やテキストの翻訳経験多数。

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